「フロントブレーキを強くかけるのが怖い」
ライダーからそんな話を聞くことがあります。
ライディングという意味では、ブレーキ操作には技術があります。
入力の仕方、姿勢、速度の作り方など、学ぶべきことはたくさんあります。
そこはMSSFが扱う領域です。
しかしその前に、整備工場として確認しておきたいことがあります。
そのブレーキは、ライダーが安心して練習できる状態なのか。
ということです。
パッドが残っていれば正常、ではない
ブレーキ点検というと、パッドの残量を思い浮かべる方が多いでしょう。
もちろん重要です。
しかしブレーキは、パッドだけで成立しているわけではありません。
レバーを操作する。
油圧が伝わる。
キャリパーが作動する。
パッドがディスクへ押し付けられる。
車両が減速する。
ライダーが指先で感じているのは、この一連の系統から返ってきた結果です。
だから、
「パッドはまだあります」
だけでブレーキ全体の状態を語ることはできません。
「効く」と「扱いやすい」は同じではない
ブレーキには制動力があります。
しかしライダーが感じるものは最大制動力だけではありません。
入力し始めたところから、どのように制動力が立ち上がるのか。
操作した量と減速感がつながっているか。
毎回同じような感覚で使えるか。
こうした部分も重要です。
極端に言えば、最大制動力が十分あっても、ライダーが思った通りに扱えなければ「怖いブレーキ」になることがあります。
逆に、車両側がきちんと整っていれば、ライダーはブレーキ操作そのものへ意識を向けやすくなります。
人が機械の不調を補正してしまうことがある
ブレーキの感触が徐々に変化した場合も、ライダーはその変化に慣れることがあります。
以前より余計に入力しないと減速しない。
左右で感触が違う。
レバーの感触が以前と違う。
でも毎日乗っていると、それが普通になる。
その状態でライディングだけを練習すると、
本来必要ではない操作を、身体が覚えてしまう可能性もあります。
だからMSSFで操作を学ぶことと、H.S factoryで車両を整えることは別々でありながら無関係ではありません。
練習するためにも、まず機械側の基準が必要です。
「高性能ブレーキ」にすれば解決するとは限らない
ブレーキに不満があると、高性能なパッドやマスターシリンダーなどへ意識が向くことがあります。
もちろん目的に応じて部品変更が有効な場合はあります。
ただし、
現在のブレーキが正常なのか。
整備が必要な状態なのか。
そのうえで性能が不足しているのか。
ここを分ける必要があります。
不調を部品変更で隠してしまえば、問題が分かりにくくなります。
まず正常な状態。
その次に、必要なら性能変更。
タイヤやサスペンションと同じです。
怖いという感覚を馬鹿にしない
特に、以前にはなかった急なタッチの変化、制動力への明らかな不安、レバーの感触の大きな変化などがある場合は、練習や走行を続けて「慣れれば大丈夫か」を確かめるより、先に車両側を点検したいところです。
ブレーキへの恐怖を克服することと、異常の可能性がある車両で走り続けることは別です。安全に関わる変化を感じたときは、機械側が正常であることを確認してから操作の練習へ進む順番を大切にします。
「ブレーキをかけるのが怖い」
という感覚を、
「もっと思い切って握ればいい」
だけで終わらせる必要はありません。
車両を確認する価値があります。
車両側に問題がなければ、今度は安心してライダー側の操作を考えることができます。
H.S factoryはライディングを教える場所ではありません。
しかし、
ライダーが正しい操作を学べる状態のバイクを作る。
そこは整備工場の仕事です。
人の問題なのか。
機械の問題なのか。
その境界を雑に扱わないこと。
H.S factoryとMSSFがそれぞれの領域を持つ意味は、こういうところにもあると考えています。
